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猪又さん過 労死裁判

これまでの 経緯
と争点

一審判決要旨
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労働災害発生からこれまでの経緯
<こ れまでの経緯>

【労基署→審査会まで全て「労災保険

支給を認めず」】


 ここで、労働災害保険の支給の可否を決定する行政の判断内容について紹介します。
 労働基準監督署(2009年2月4日不支給処分決定)では、労働時間の状況について「時間外労働時間 数は発症前1ヶ月において 7時間であり、又、発症前1ヶ月ないし6ヶ月にわたって・・平均時間も2時間40分〜6時間の間で推移している」、勤務の不規則 性の状況については「評価出来る内容は認められない」、交替制勤務・深夜勤務の状況については「深夜勤 務があるもののシフトを組 んで勤務しており評価できる内容は認められない」、作業環境の状況については「主に屋外での作業であり、評価できる内容は認めら れない」、精神的緊張の状況についても「評価出来る内容は認められない」などとして不支給を決定しまし た。

 労基署の決定以降、ご遺族は航空整備士の非日常的な緊張を伴う業務内容について、様々な資料や、航空 関係者の意見書などを添え て決定の不当性を訴えましたが、審査会でも「発症前6か月の時間外労働が月2時間40分〜7時間と言う状況で、業務と発症との因 果関係が強いと評価される100時間の時間外労働には程遠く、脳・血管疾患の発症との関連性が強いと評 価される80時間を超える 状況でもなく、著しい長時間労働に継続的に従事したとは言えない。」などとして「航空整備士の特殊な労働実態」について検証をせ ずに不支給の決定を繰り返しました。

 一般的な作業の労働 1時間と、不規則な時刻に航空機の整備を野外で行う1時間は同じ負荷なのでしょ うか?
 更に審査会は、「夜勤の翌日には最低でも1日は公休を取得しており、夜勤があったことをもって過重な 負荷があったと判断できる ものではない。」また「他社(猪又さんは元ANA整備士)においても永年にわたり同様の業務に従事していた経験もあり、夜勤を含 む変則勤務に従事したことが、特に過重な労働であったとは認めることが出来ない。」としてそれぞれの勤 務時刻が彼の体にどの様に 負荷をかけたのかなどの詳細な検討もせず結論を出しました。

 猪又さんは、かねてから健康上(高血圧等)の理由から、会社に夜勤の無い2交代勤務班への異動を希望 していました。やっと希望 がかない2008年4月から夜勤の無い班に異動しました。

しかし、会社は2週間後には、引き続きそれまで同様に夜勤を指示したの です。次の5月には7回の夜勤(うち4回が徹夜)をしなければなりませんでした。 こうした状況で脳出血を発症したことは因果関 係として認められるべきでしたが、、審査会は「安全配慮義務違反があるか否かは業務起因性を認定する上 で直接問題とされるもので はない」などとして、こうした指摘を退けたのです。



2011年8月 東京地方裁判所 に提訴 【問われ

る労基署、厚生労働省の常識・・・
」】

 提訴以来、被告である労働基準監督署(厚生労働省)からの反論文書が示され、法廷での審理が進んでいます。

現在までに明らかになったそれらの反論文書を見ると、以下のような主張や見解が繰り広げられています。 このようなことが今後も裁 判の中で認められるとすると、不規則な時間帯に働く多くの労働者は引き続き労働災害保険による救済を受けられない状況が続いてし まいます。

私たちは、猪又さんのような悲劇や、現場の労働安全後退、社会的な被害拡大を考えます。航空であれば、 航空の安全が脅 かされるの考えるからです。
 このような厚生労働省の主張や見解が「常識」としてまかり通る社会は改められなければならないと考え ます。このホームページを ごらんになった方々のご理解とご支援をお願い致します。






労基署(被告)の反論と私たちの説明
【被告労基署側の反論と私たちの説 明】

◆労働時間以外の負荷要因について
  「Aら整備士は、おおむね前月末に提示される翌月の早番、遅番、夜勤、出張等の勤務スケジュールを定めた・・・勤務表に基づき整備業務に従事している。勤務表は基本的には パターンが決まっており、・・・Aは長年にわたってこの勤務表により整備業務に従事していたものであっ て、その業務が予測困難な ものとは認められない」(乙号証より抜粋)

 ◇◇私たちの説明◇◇
・あらかじめスケジュールが分かっていても、生理的に人間の体は機械のようにピッタリとそのスケジュールに 合わせられるものではあり ません。非科学的な主張になっています。業務の予測が困難かどうかが問題ではなく、毎日出勤時間が大きく変動する深夜を含む交替制勤 務そのものが人間の体に与えるダメージが如何ほどであったか、また本人にどれだけの疲労蓄積を強いたのかを 推定しなければならないの です。

◆長期間の過重業務従事について
  「業務の発症との関連性が強いと評価できる発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働に従事したものとは認められず、また発症前2か月間ないし6か月間にわた る1ヶ月当たりの平均時間外労働時間数は、3時間25分ないし6時間であるから・・・月間当たりおおむ ね80時間を超える時間外 労働に従事したものとも認められない。」 (乙号証より抜粋)

◇◇私たちの説明◇◇
・例えば、机に向かって事務作業する労働者と、極寒の千歳空港の屋外作業、真夏の羽田空港の駐機場(40度 を超えることも多い)での 人の命を預かる整備作業と、1時間という単位の労働の負荷は同じなのでしょうか? 「長期間」について、週40時間を何時間超えたか を尺度としていますが、労働過重性を評価する時にはその作業場所や、作業内容に合わせた尺度が必要ではない でしょうか。航空機整備作 業や航空機の操縦などは、多くの人命に責任を持つという非日常的なストレスに晒されながらの労働です。人命を預かる仕事の重さについ て、相応に評価されないのであれば、今後も、過労による多くの犠牲者を生むことにつながります。厚生労働省 (国)がそのことに正面か ら向かい合って解決しようと努力しなければ、それは航空の安全(利用者の命)をも脅かす結果を招くのではないでしょうか。
                                    


◆作業環境の負荷要因について
  「・・・・従事する航空機の整備場所は、屋外の空港駐機スポットであるため季節によって温度変 化の影響を受けるが、冬期 は防寒衣類を着用するなどの対策が講じられており、急激な温度変化の環境は認められない。また、航空機エンジンが発する騒音等に 対しては、耳のプロテクターを着用する対策が講じられており、騒音が影響する環境にあるとは認められな い」(乙号証より 抜粋)

◇◇私たちの説明◇◇
・冬期、極寒の北海道での作業で、防寒着を着ていれば「急激な温度変化の環境は認められない」というのは、 風のないところで、じっと していれば、ということでしょうか? 現場の実態は、風を遮る場所も少なく、手袋やプロテクターを外さなければ出来ない作業もあり、顔面までを隠すことも出来ないのです。このような見解を持つということは、現 場を調べ、その事実を知らないからでしょう。
                                   

◆「精神的緊張を伴う業務とは認められない」と主張していることについて

  「・・一等航空整備士の資格を有する・・本件会社の基準の技量に達したものと認められ、・・・著しい精神的緊張を伴う業務であるとは認められない」(乙号証より抜粋)           

◇◇私たちの説明◇◇
・技術資格を得たり、会社基準の技量に達したら、重要なシステム(例えばエンジンとか操縦系統など)の修理 作業であっても緊張をしな くなるのでしょうか? あるいは高所作業の緊張は無くなるのでしょうか? 作業の失敗が及ぼす影響の予測は、経験や知識を積むほど に、より強く自覚されるものです。(経験の浅い技術者は怖さを知らないという側面を持っている)